Research & Development

植物が時間情報を伝える仕組み

植物は細胞ごとに「体内時計」を持っています。しかし、植物には神経も血管もありません。どうやって、ある細胞が測った時間を別の細胞へと伝えているのでしょうか?その仕組みに迫ります。

研究の背景

多細胞生物では基本的にはどの細胞も体内時計を持っています。これは体内時計が遺伝子発現や代謝など様々なことに関わっているからです。しかし、多細胞生物はたんなる単細胞の寄せ集めではありません。多細胞生物としてうまくやっていくためには細胞同士が連絡をとりあってうまく協調する仕組みが不可欠です。

私たちヒトを含む多くの動物では脳に体内時計の中枢があります。脳で作られたリズムは神経や血管、体液を通じて体のあちこちへと伝えられています。これにより、生き物のとして統一的な時間を測ることが可能となり、それぞれの器官や組織が協調した反応を示すことができるのです。では植物ではどうでしょうか?ご存知のように植物には神経も血管もありません。しかし、多細胞生物である以上、それぞれの細胞がバラバラのリズムをもっているとうまくやっていけないだろうというのは想像できます。じつは、植物には維管束(いかんそく)が体全体にめぐらされています(もちろん維管束を持たない植物もいますけど、いまはその話はしません)。そして実際、維管束は単なる水や栄養の通り道だけでなく、小さなタンパク質やそれよりもさらに小さいペプチド、RNAなどいろいろなシグナル物質の通り道でもあることがわかってきました。

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血管や神経を持たない植物はどうやって細胞それぞれが測っている時間を伝えているのだろう?糸電話ではないことは確かだ。

そこで、私たちは体内時計の情報すなわち「時間情報」もまた維管束を通って植物の体のあちこちへと伝えられているのではないか、と考えました。とくに、私たちは維管束の中を輸送される栄養素が時間情報を伝えている物質ではないかと考え、そのことを確かめるために研究をしています。栄養素はもちろん植物を形作るために必要ですが、情報源としても重要です。もし栄養を通じて植物の体内時計を調節できるのであれば、適切な栄養を与えることで植物をより立派にしたり、花を早く咲かせたりできるかもしれません。また、植物がどうやって離れた細胞に時間を伝えているのか知ることは、植物がどうやって長距離の情報伝達をおこなっているかについて新しい知見を付け加えることができます。何より面白いですよね!?

やっている研究を簡単に

1.根から地上部への時間情報は何が伝えているの?

体内時計は日の長さ、温度、栄養などを利用して周囲の環境を測っています。しかし土の中には光は届きませんし、温度もほとんど変化しません。私たちはすでに、いくつかの陽イオンが根から周期的に植物体内に取り込まれていることを見つけています。なかでも、植物の3大栄養素の1つであるカリウムに着目して実験をしたところ、カリウムが多すぎたり少なすぎたりすると、体内時計のリズムが不安定になることがわかりました。私たちは、カリウムの取り込みリズムが根から地上部へと時間情報を伝える良い候補だと考え、そのことを証明しようと研究しています。

2.地上部から根への時間情報は何が伝えているの?(1の逆)

こちらについては実はヒントなる実験がすでに行われており、どうやら糖がその有力な候補であることが示されています。そこで私たちは糖がどのように根へと時間情報を伝えているのかに絞って研究すると共に、地上部へと輸送されているカリウムと糖の関わりについて調べています。

3.器官間での時間情報のやりとり

この2つの話を組み合わせて考えることで、どうやら植物は地上部と根の間で「栄養素」を使って時間情報をやりとりしている(らしい)と私たちは予想しています。たしかに、根から取り込んだカリウムを地上部へと運ぶついで、光合成でできた糖を根へと運ぶついで、に時間情報を伝えることは合理的なような気もします。私たちは、根と地上部のリズムをそれぞれ測ることで、このことを示そうとしています。体内時計はさまざまなレベルで情報をやりとりしていますが、新たな階層でのそうした情報のやりとりの発見を目指します。