Research & Development

Time information sharing

個々の細胞が持つ概日リズムはどのように統合され、植物に利用されているのだろうか? 私たちは維管束を通る栄養素に着目し、この謎を解き明かそうとしています。

研究の背景

動物も植物もほぼ全ての細胞に概日時計システムが存在しています。哺乳類の場合は神経性または体液性の物質を介して、視交叉上核の時間情報は全身に伝えられています。では、植物ではどうでしょうか?植物は神経や血管はありませんが、細胞同士は原形質連絡でつながっていますし、道管や篩管といった維管束にさまざまなシグナル伝達物質を載せて長距離シグナル伝達を行っていることが明らかになってきました。概日時計については、現在までに葉におけるスパイラル波(葉の中で概日リズムの位相が伝播する)[Fukuda et al., 2007; Wenden et al., 2014]や私たちが見つけた維管束から葉肉へのシグナル伝達[Endo et al., 2014]、また地上部あるいは茎頂きから根へのシグナル伝達[James et al., 2008;Takahashi et al.,2015]などが報告されているものの、何が・どのように時間情報を伝えているのかについての決定打はありませんでした。

そこで私たちは、先の論文で地上部から根へのシグナル伝達には糖が重要な役割を果たしている点、鉄やマンガンなどいくつかの元素を欠乏させると概日リズムに影響がでる点などから、維管束を輸送されている栄養素が時間情報を伝えているのではないかと考えました。根と地上部の時間情報がどのような形でやりとりされているかを明らかにしようとしています。

根から地上部へ時間情報を伝えるものはカリウム?
研究内容:
植物はカリウムを大量に必要とするため、野外の土壌ではカリウムは慢性的に不足しています。一方で、カリウムの輸送に関わるトランスポーターの発現には明確な概日リズムが見られることから、カリウムの取り込みにはリズムがあると私たちは考えています。こうしたカリウム量の変動は根の概日時計の情報を含んでいますので、これが根から地上部へ時間を伝えるものの実体ではないかと考えて研究を行っています。

究極の目標:
農業では肥料という形で大量の栄養を投入します。もしかしたら、こうした行為は良くも悪くも概日時計に影響を与えている可能性があります。その影響を明らかにできれば、より精密に概日時計を調節し、農業へ応用できるかもしれません。
地上部から根へ時間情報を伝えるものは糖?
内容:
糖は概日リズムの振幅を増大させ、光合成によって作られた糖が根の概日リズムに影響しているらしいことは既に示されています。私たちは、地上部から輸送されてきた糖のリズムが根のカリウムトランスポーターの発現リズムに影響を与えていると考えています。

究極の目標:
根には光が直接あたりませんし、地面の下では温度も非常に安定しています。いわゆる概日時計の入力刺激として知られているものが使えない根がどのように時間情報を得ているかがわかれば、植物の長距離の時間情報の伝達機構がわかると期待しています。
器官間での時間情報のやりとり
内容:
カリウムはさまざまな役割を持ちますが、光合成や糖の積み込みにも重要です。一方で糖は概日リズムの振幅などに影響を与えます。つまり、根からのカリウムが伝えた時間情報は光合成を介して糖という形でまた根へと返ってきます。こうしたフィードバックループは時計では一般的に見られており、分子間やオルガネラ間でのフィードバックループが既に報告されています。私たちは、より上位の階層として器官間のフィードバックの存在を示したいと考えています。

究極の目標:
概日時計の特徴は分子から個体まであらゆる階層においてリズムという共通の現象を示すことです。リズムを安定化する仕組みとしてフィードバックループが挙げられ、それもまたあらゆる階層に必要なのだと考えています。個体としてどのように安定的に時間を測るかを理解するためには器官間のフィードバックループの理解は欠かせません。私たちはあらゆる階層のフィードバックループを明らかにし、植物が安定して時間を測ることのできる理由を明らかにしたいと考えています。