Research & Development

Clock & Cell-Fate Determination

概日時計の本質的な役割とは何だろうか? 私たちは分化誘導系および1細胞トランスクリプトーム、アルゴリズム理論を組み合わせることで概日時計と細胞周期の関係を解き明かそうとしています。

研究の背景

細胞分裂周期のタイミングを調節し、DNA損傷を引き起こす有害な紫外線から身を守るために、概日時計は発達してきたと考えられています。また動植物を含めた多細胞生物では、多くの場合、細胞運命決定は細胞分裂を伴います。そのため概日時計は細胞運命決定に関わると考えられており、こうした現象はこれまでに数多く報告されています。

マウスのES細胞においては、発生初期過程では概日リズムは見られず発生が進むにつれて概日リズムが見られるようになります。さらに、分化し概日リズムが確立した細胞をiPS化すると再び概日リズムは消失します[Kowalska et al., 2010; Yagita et al., 2010; Uemura et al., 2014]。実際、マウスのclock変異を持つES細胞では細胞増殖活性が著しく現象していることが知られています[Ru et al., 2016]。モデル植物シロイヌナズナにおいても、circadian clock associated 1; late elongated hypocotyl (cca1 lhy)二重変異体は維管束の発達が異常になっていることが報告されており[Aihara et al., 2014]、維管束の細胞運命決定への関与が示唆されています。

概日時計はどのようにして細胞運命を制御しているのだろうか
研究内容:
植物細胞は比較的簡単に分化転換を誘導することが可能です。私たちはVISUALと名付けられた、葉肉細胞を維管束細胞へと運命転換する分化誘導系[Kondo et al., 2016]を利用することで、分化・脱分化過程における細胞運命の変遷を概日リズム形成という観点から明らかにしていきます。また、葉肉から維管束への分化誘導系以外にも、気孔形成、根の細胞分裂、維管束形成などについても調べることで、概日時計が細胞運命決定に普遍的に関わることを明らかにしていきます。

究極の目標:
すでに、細胞運命決定過程は動植物で本質的に類似した仕組みを使っているらしいことがわかってきています。これまでは、遺伝子やアミノ酸配列の類似性から機能を理解しようとしてきました。しかし概日時計システムそのものや今回の例のように、ある目的を達成するために選択可能なシステムはそれほど多くないと考えられます。これは収斂進化という形で目にすることができます。通常、収斂進化は形態上の類似性を指しますが私たちはシグナル伝達経路にもまた収斂進化が見られると考え、植物から動物を含めた生命を理解したいと考えています。
細胞運命決定過程で何が起こっているのだろうか
内容:
今回用いる分化誘導系では、植物細胞の分化転換のタイミングはかならずしも同調しているわけではないため、葉には様々な状態の細胞が混在しています。そこで1細胞トランスクリプトーム技術を用いることで、より高い空間分解能での解析を行います。さらに、1細胞解析で課題となっている「計測対象が死滅するため時系列解析ができない」という問題も独自の技術を開発することで、高い時間分解能での解析を目指します。

究極の目標:
1細胞トランスクリプトームは強力な手法ですが、さまざまな制約があります。そのうちの一つが上記の「細胞が死んでしまって時系列解析ができない」問題です。私たちが開発中の手法は、1細胞時系列トランスクリプトーム解析への扉を開くと信じています。
概日時計はどんな遺伝子を制御することで細胞運命を調節しているのだろうか
内容:
概日時計はほとんどの遺伝子発現に関わっているだけでなく、ありとあらゆる細胞タイプで発現しているので、どの時計遺伝子が何を制御することで、細胞運命が制御されているのかはよくわかないままでした。私たちは幹細胞で主に発現する時計遺伝子(転写因子)を発見しており、これによって制御される遺伝子群が鍵となっていると考え、ChIP-seqなどによって標的遺伝子を探索し、細胞運命の決定メカニズムを明らかにしようとしています。

究極の目標:
植物において、これまで発生と時間生物学が交わることはほとんどありませんでした。しかし、概日時計はほとんどの遺伝子発現に関わっており、当然、発生に重要な遺伝子も数多く含まれています。地球という周期的に環境がダイナミックに変動する中で生きる生命の発生と概日時計は実は密接な関係にあるのかもしれません。動物では、発生初期では盛んに細胞分裂するために、あえて概日時計を停止させているという考え方もあります。植物における発生と概日時計はそういった方向での関わりもあるかもしれません。