RESEARCH

◯ TOR(Target of Rapamycin)シグナル経路の解明
免疫抑制剤ラパマイシンの細胞内標的分子として発見されたTORタンパク質は、複数のサブユニットと共にTOR complex 1(TORC1)とTOR complex 2(TORC2)と呼ばれる複合体を形成します。これらの複合体は、インスリンによる刺激や細胞内外の栄養状態を感知し、それらを統合して細胞の成長、増殖、および代謝などの基本的な生命現象を制御します (図1)。この経路の破綻は、癌や糖尿病などの疾患を引き起こすことから、その解明が注目されています。私たちは、TOR経路が保存されている分裂酵母をモデル生物として利用し、遺伝子操作の容易さを活かして、新たなTOR経路に関与するシグナル伝達因子を発見し、解析を進めています。

 

図1 栄養源やインスリン/成長因子による刺激を伝達するTORシグナル経路

 

 


◯ 高温環境での増殖制御メカニズムの解明
個々の生物種が生育できる温度の範囲は比較的狭く、その範囲からわずかに温度が上昇するだけで生存を脅かす「熱ストレス」になりえます。分裂酵母の至適生育温度は 30℃程度であり、38℃を超えると生育できずに死に至りますが、TORC1の阻害剤であるラパマイシンを培地に添加することで、分裂酵母が39℃の高温でも生育できるようになることを私達は発見しました (図2)。ラパマイシンによる TORC1 阻害で酵母が 39℃でも生育できるようになるという発見は、通常は細胞増殖因子として働くTORC1が、高温環境では増殖を抑えていることを意味しています。また、TORC1に加えて、酵母細胞の高温増殖を制御する因子をいくつか特定することに成功しています (図3)。私たちは、これら因子による高温環境における酵母の生育制御メカニズムの解明に向けて、研究を進めています。

 

図 2 ラパマイシンによる分裂酵母の生育温度上限の上昇

 

 

図 3 分裂酵母の高温での増殖を抑制する因子群
 


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