NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

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テロメア、転写因子、そして骨髄異形成症候群

演題 テロメア、転写因子、そして骨髄異形成症候群
講演者 指田 吾郎 博士 (Cincinnati Children's Hospital Medical Center)
使用言語 日本語
日時 2010年7月15日(木曜日) 14:00~
場所 バイオサイエンス研究科 D105
内容

骨髄異形成症候群(MDS)は、血球異形成、汎血球減少および急性骨髄性白血病(AML)への移行性を認め、造血障害と血球分化阻害を特徴とした骨髄機能不全症候群の一つである。MDSは高齢男性に多くみられ予後不良である。その臨床病態は不均一であるが、免疫異常も伴う遺伝子異常を起因とした造血幹細胞(HSC)のクローン性疾患である。今回、テロメア制御、転写因子によるHSCの増殖制御の観点から、それぞれの異常がどのようにMDS/AMLの発症に貢献するか論じたい。テロメア短縮(あるいはテロメア結合蛋白、テロメレース遺伝子群の異常)は、ATM/p53依存性のテロメア損傷反応を介して造血を阻害する。また持続するテロメア損傷反応は、p53非存在下において分裂期の回避による多倍体化を来して腫瘍化に貢献するとされる。MDSでは有意なテロメア短縮を認めるがテロメレースを強発現していないため、血球分化を阻害する遺伝子異常の他に、DNA損傷反応を阻害するp53変異や、RasあるいはBMI-1などの細胞増殖能を亢進する異常がMDS/AMLの発症に必要である。RUNX1転写因子はHSCの増殖制御および血球分化に重要である。そのt(8;21)転座はAMLに最も多く認める変異の一つであり、点突然変異はMDSの最大20%に認められる。AMLにおいて点突然変異RUNX1と正の関連が報告されているMLL (Mixed lineage leukemia gene) の変異の一つであるMLL-partial tandem duplication (MLL-PTD) は野生型RUNX1の蛋白レベルでの発現を抑制するが、点突然変異RUNX1の発現を亢進する。ただし野生型MLLは野生型RUNX1に結合し、その蛋白発現レベルを増加させる。MLL-PTD陽性AML細胞では野生型RUNX1蛋白の発現が著しく低下していた。したがって、RUNX1変異に加えて、野生型RUNX1の蛋白レベルでの発現低下がMDS/AML発症に寄与することが示唆される。RUNX1とPU.1やELF4を含むETS転写因子は蛋白結合を認め、機能面でも造血に関して相互作用が認められている。がん遺伝子であるELF4はt(8;21)転座を除く予後不良なAMLで高発現している。ELF4はp53とp16/RB pathwayを抑制する機能があり、腫瘍性RasG12Vと協調するがその欠損はRasG12Vによる腫瘍化を著しく阻害する。またELF4はHSCの休止期(G0期)からG1/S期への移行を促進する。一方ELF4はストレス下においてγH2AX損傷部位へ直接動員され、DNA損傷反応を亢進する機能があるが、その欠損はDNA損傷自体を速く減少させ、p53を含むDNA損傷反応を抑制する。したがって、ELF4の発現レベルはMDS/AML発症過程において細胞依存性、p53依存性に選択されると考えられる。近日、5q-MDSモデルマウスによって、5q-症候群の原因遺伝子としてリポゾーム蛋白を構成するRPS14の発現低下およびその貧血と血球異形成がp53依存性であることが報告された。個々の遺伝子異常の病態への影響に加えて、今後MDS/AMLの発症過程あるいは原因を理解するためには、ヒトのテロメア動態、MDSの臨床像に合致したモデルマウスが求められる。

問合せ先 動物分子遺伝学
加藤 順也 (jkata@bs.naist.jp)

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