NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

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(1)放出時の精細胞のポジショニング制御と受精領域に存在する特徴的な構造体の解析
(2)ライブセルイメージングと顕微細胞操作による被子植物の雌性配偶体発生の解析

演題 (1)放出時の精細胞のポジショニング制御と受精領域に存在する特徴的な構造体の解析
(2)ライブセルイメージングと顕微細胞操作による被子植物の雌性配偶体発生の解析
講演者 丸山大輔 博士(横浜市立大学・木原生物学研究所)
須崎大地 博士(横浜市立大学・木原生物学研究所)
使用言語 日本語
日時 2017年8月18日(金曜日) 16:00~17:30
場所 大セミナー室
内容 (1)花粉管から放出される2つの精細胞は,卵細胞と中央細胞という2つの雌性配偶子と独立に受精する.受精の直前,精細胞は卵細胞と中央細胞に接する位置に正確に送り込まれるが,このポジショニング制御のメカニズムは明らかではなかった.そこでわれわれは花粉管内容物の受容のカギを握る助細胞の解析を行った. semi-in vivo受精系を用いた高倍率観察の結果,2つの助細胞に誘引された花粉管が一方の助細胞へと放出をすると,内容物は一瞬で助細胞を貫通し,中央細胞と卵細胞との間隙に蓄積した.そのため,助細胞が自らをパイプとして花粉管内容物を受精領域へ導き,精細胞のポジショニング制御に重要な役割をはたすことが示唆された.さらに,ミトコンドリアをGFPラベルした花粉を受入れた胚珠を観察したところ,ほぼ全てで助細胞に留まるミトコンドリアが見られた.ところが一部の胚珠ではGFPシグナルが,受精した中央細胞である胚乳で観察された.花粉管内容物の経路を解析すると,重複受精後に胚乳と融合した残存助細胞を介して侵入したことが示唆された.おそらく,胚乳など受精領域外に放出された精細胞は受精できないので,この特殊な経路は多精を防ぐ役割があると考えられる.したがって,花粉管内容物の通路となる助細胞は,胚珠の状態に応じて細胞融合を制御することで,柔軟に精細胞の目的地を切替えていることがわかった.当研究室ではその他にも卵細胞と中央細胞の間の受精領域に局在する顆粒状の構造体にも興味を持って解析を進めているので,その研究展望についても話をしたい. (2)被子植物の典型的な雌性配偶体(胚嚢)は、1つの胚嚢細胞が3回の核分裂の後に細胞化した4種7細胞からなる。なかでも卵装置といわれる卵細胞、中央細胞、助細胞はそれぞれ重複受精過程に必須な固有の機能をもち、古くから精力的に研究されてきた。しかしながら、母組織の深部に位置する雌性配偶体は観察や単離が困難であったため、各細胞の詳細な発生過程はおろか特有の遺伝子の機能や細胞間コミュニケーションについては、現在も不明な点が多い。そこで我々は、卵装置が裸出して解析が容易なトレニア胚珠をin vitro培養するライブセルイメージング系を確立した。これにより、核分裂から始まる雌性配偶体発生の動態を明らかにした。未熟な細胞にレーザー照射した後に雌性配偶体発生を調べたところ、助細胞の花粉管誘引能は卵細胞や中央細胞を傷害した場合に低下した。それだけでなく、未熟な卵細胞を除去した際には、2つの助細胞のうち片方が卵細胞に近い形態を示した。以上の結果から、各細胞の正常な運命決定に対して細胞間コミュニケーションが重要であることが示された。興味深いことに、シロイヌナズナのライブイメージングでも同様の結果が得られた。そのため、卵細胞のバックアップシステムは被子植物に保存されていると考えられる。助細胞機能が低下するシロイヌナズナ変異体の助細胞のRNA-seq解析をおこなったところ、この分子機構に迫る糸口となりそうな結果が得られたので、合わせて紹介したい。
問合せ先 植物発生シグナル
中島 敬二 (k-nakaji@bs.naist.jp)

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