NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

セミナー情報

APCおよびWnt経路の異常と発がん

演題 APCおよびWnt経路の異常と発がん
講演者 川崎 善博 博士
(東京大学分子生物学研究所 准教授)
使用言語 日本語
日時 2016年10月12日(水曜日) 14:30~15:30
場所 大セミナー室
内容 Wntシグナル経路は発生や形態形成などの様々な生命活動に重要な働きをしてい ることは良く知られている。さらに、癌抑制遺伝子APCの変異によるWntシグナル経路 の恒常的活性化が大腸癌発症の最も大きな原因であると考えられている。私たちは、 APCに結合する蛋白質として同定した低分子量G蛋白質のRac1/Cdc42特異的な新規 GEF(ヌクレオチド交換因子):Asef/Asef2を手掛かりとして研究を進め、APC/Asefs複合 体によるアクチン細胞骨格系の制御が細胞運動や血管新生に重要であること、および APC/Asefs制御機構の破綻が大腸がん細胞の運動能/浸潤能活性化や腸管腺腫発生 の引き金になっていることを分子・細胞・個体レベルの解析で明らかにした。一方で、 Asef/Asef2二重欠損マウスは目立った異常を示さないことから、Asef/Asef2は癌治療薬 の有望なターゲットに成り得ると期待できた。 これらの解析に加えて、私たちは長鎖非コードRNA(lncRNA)を切り口とする研究にも 取り組んでいる。現在までに、Wntシグナル経路の標的遺伝子は100種類以上報告さ れているが、転写因子c‐Mycが細胞の癌化に関わる最も重要なWntシグナル標的因 子の一つであると考えられている。私たちは、次世代シークエンサーを用いた遺伝子 発現解析からWnt/c‐Myc経路の直接の標的遺伝子として新規lncRNA:MYUを同定した。 さらに、MYU結合蛋白質としてRNA結合タンパク質:hnRNP‐Kを見出し、MYU/hnRNP‐K 複合体の働きによって発現の増加したCDK6が大腸がん細胞の増殖に重要であること を突き止めた。c‐Mycは様々なシグナル経路を制御する重要なタンパク質であるため、 c‐Mycを直接阻害する薬剤は大きな副作用があると予想される。本研究によって、c‐ Mycが誘発するがんに対してはMYU、hnRNP‐K、CDK6による情報伝達の仕組みがが んの分子標的薬を創製する上で重要な標的となることが示唆された。 本セミナーでは、lncRNAが関わる細胞癌化機構の解明を目指した現在進行中のプロ ジェクトも併せて紹介するとともに、今後の展望について議論したい。
問合せ先 構造生物学
箱嶋 敏雄 (hakosima@bs.naist.jp)

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