NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

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分子・細胞・個体にまたがる生命現象の数理研究とヘテロなシグナル伝達

演題 分子・細胞・個体にまたがる生命現象の数理研究とヘテロなシグナル伝達
講演者 作村 諭一 博士(愛知県立大学 情報科学部 准教授)
使用言語 日本語
日時 2016年9月14日(水曜日) 10:00~11:00
場所 大セミナー室
内容 これまで我々は、分子・細胞・個体の異なる階層にまたがる生命現象の実験データ を用いた数理的研究を行ってきた。 その中から最初に、「観測しやすいデータ」から「観測しにくい知見」の推定・抽出方 法について紹介する。発達中の神経軸索は、ガイダンス分子(Sema3A)に対し、膜電 位に依存して誘引性または反発性の伸長を見せる。そのため、Sema3A受容体の下 流で生成されるcGMPから膜電位までのシグナル伝達の同定が軸索誘導の原理解明 につながる。我々は、ピペットから成長円錐に注入されたcGMPアナログが引き起こし た(観測容易な)膜電位変化の時系列データを用い、cGMPから膜電位までの(観測困 難な)シグナル伝達を数理的手法により同定した。 次に、分子と非分子の相互作用を定式化することで、細胞の変形や走性が容易な 原理で表現できることを紹介する。硬い方向と柔らかい方向がある異方性の培養基 質の上で、細胞性粘菌は柔らかい方向に走性を見せる。我々は、細胞性粘菌の走性 戦略を数理的に解明し、その戦略をMyosin II と機械的力との相互作用で表現するこ とで、細胞性粘菌の走性を簡単な原理で再現した。 3つめに、ヒトの呼気成分から病状を診断する数理的手法について紹介する。侵襲 検査は身体に負担をかけるため、非侵襲データからの病状診断に注目が集まってい る。血液に含まれる疾病関連の成分は肺胞で呼気に伝達されるため、呼気成分を解 析すれば疾病診断が行える可能性がある。我々は、肺がん患者の呼気成分を機械 学習法によって解析し、高い真陽性率と真陰性率を示す診断器を作成した。 最後に、以上の研究結果に基づき、分子・細胞・個体の現象に対する数理手法の有 益性、およびデータに基づいたヘテロなシグナル伝達の可能性について議論したい。
問合せ先 構造生物学
箱嶋 敏雄 (hakosima@bs.naist.jp)

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