NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

研究成果の紹介

大津厳生助教が、第57回日本生化学会近畿支部例会「最優秀発表賞」を受賞

57回日本生化学会近畿支部例会「最優秀発表賞」は、口頭発表とポスター発表の内容に対し、学会参加者からの投票により選出される賞です。

受賞コメント

我々は大腸菌によるシステインの発酵生産を目的とする研究を進めており、その過程で、システインが細胞内で発生する有害な過酸化水素を消去し、細胞を酸化ストレスから防御していることを明らかにした。この受賞は我々のこれまでの研究成果が評価されたものであり、二人三脚で研究を行ったタイの留学生Natthawut君、GCOEポスドックである森ヶ崎 進博士・門倉 広博士、共同研究者、研究室のスタッフの方々に深く感謝いたします。今後も研究をさらに進め、微生物バイオテクノロジー分野の発展のために尽力していきたと思っています。

受賞内容

システインは大腸菌の細胞内でほとんど検出されないが、細胞膜には細胞表層空間(ペリプラズム)にシステインを輸送するトランスポーターが複数存在しており、その生理的役割に興味が持たれていた。大津助教と今春博士号を取得した学生(Natthawut)は、トランスポーターの一つYdeDを欠損した大腸菌は過酸化水素に弱くなると同時に、YdeDを細胞膜に多数存在させると過酸化水素に耐性を示すことを見出した。また、システインはペリプラズムで過酸化水素を水に還元し、その際自身は酸化されてシスチンというアミノ酸に変わった後、別の細胞膜タンパク質FliYによって細胞質に再び取り込まれること、およびFliYを壊した大腸菌も過酸化水素に弱くなることがわかった。

図2以上の結果は、システインとシスチンがYdeDとFliYの働きによって細胞質とペリプラズムを循環しながら過酸化水素を水に変えて消去することを示しており、ユニークな酸化ストレス防御メカニズムとして「システイン/シスチンのシャトルシステム」を提唱した(右図)。本研究の成果により、細胞内でのシステインの新たな機能、およびシステイントランスポーターの役割が明らかになった。また、大腸菌の細胞分裂についても興味深い現象を見出した。細胞質で過酸化水素を消去できない変異株(カタラーゼ、ペルオキシダーゼの機能欠損株)は低濃度(25-100 M)の過酸化水素に弱くなっていたが、細胞は分裂が完了せず、伸長したままの状態で死滅することがわかった(右図:緑枠)。しかしながら、この変異株にYdeDを過剰に発現させると細胞形態の異常は見られず、正常に生育できるようになった(右図:赤枠)。

今後はペリプラズムに過酸化水素が存在すると、なぜ大腸菌は細胞分裂に障害を来すのか、そのメカニズムを明らかにする予定である。また、将来的にはシステインのトランスポーターを標的とした新しい化学療法剤の探索・創製へと夢は広がっていく。

関連する論文
  1. Iwao Ohtsu*, Natthawut Wiriyathanawudhiwong, Susumu Morigasaki, Takeshi Nakatani, Hiroshi Kadokura, and Hiroshi Takagi: The L-cysteine/L-cystine shuttle system provides reducing equivalents to the periplasm in Escherichia coli. J. Biol. Chem., 285, 17479-17487 (2010).
  2. Natthawut Wiriyathanawudhiwong*, Iwao Ohtsu*, Zhao-Di Li, Hirotada Mori, and Hiroshi Takagi: The outer membrane TolC is involved in cysteine tolerance and overproduction in Escherichia coli. Appl. Microbiol. Biotech., 81, 903-913 (2009).

(2010年07月01日掲載)

研究成果一覧へ


Share:
  • X(twitter)
  • facebook