研究成果

研究成果

細胞は自律的に集まって器官をつくる。その仕組みが明らかに!

遺伝子発現制御研究室の松井貴輝助教の研究グループは、小型の熱帯魚「ゼブラフィッシュ」をモデル動物として用い、器官の立体構造が形成される際、細胞群の自律的な集合が“ひきがね”になることを世界で初めて明らかにした。この成果は、5月31日に米国科学アカデミー紀要(Proc. Natl. Acad. Sci. USA)の電子版に掲載され、日刊工業新聞、朝日新聞、日経産業新聞、化学工業日報に記事として掲載されました。
プレスリリース詳細 ( 大学HP http://www.naist.jp/ 内コンテンツ )

松井貴輝助教のコメント

研究を初めた当初、「Canopy1は、○○に関わっている」という仮説をたてましたが、期待された結果は得られず、このプロジェクトを一時中断していた時期がありました。しかし、過去の仮説にとらわれず、解析したデータを見直したときにヒントを見つけ、それがこの論文につながりました。「研究は思い通りに行かない。でも、あきらめなければ良いこともある」と改めて実感しました。研究はおもしろいです。理化学研究所岡本 仁先生、平林義雄先生を始めとする共同研究者皆様、また、遺伝子発現制御研究室の皆さんには大変お世話になりました。この場を借りてお礼申し上げます。

研究の概要

生物の器官が正常に機能するためには、個々の細胞が正常にはたらくことに加えて、細胞が正確に配置される必要がある。しかし、細胞がどのように集合体(クラスター)を形成するのか、また、集合すること(クラスタリング)自体が、その後の器官形成にどのように影響するのかについてはあまり知られていなかった。我々は、ゼブラフィッシュの左右差を規定する器官であるKupffer’s vesicle (KV:マウスのノードに相当)の形成過程を器官形成のモデルとして、細胞がクラスターを形成する分子機構とその生理意義の解析を行ないました。
KVの発生は、原腸陥入中期に20-30個のDorsal forerunner cells (DFCs)と呼ばれるKV前駆細胞のクラスターが形成されることから開始される。原腸陥入中期から後期にかけて、DFCクラスターは植物極側に移動し、体節形成の初期までに、シリアを持つ上皮細胞に分化する。その後、分化したDFCsは内腔をもつ小胞状に並びKVが完成する。私たちは、Fibroblast growth factor (FGF)の正の制御因子Canopy1の機能解析をおこない、Canopy1が原腸陥入期のゼブラフィッシュ胚においてDFC特異的にFGFシグナルを増強していることを発見した。canopy1の発現はFgf8によって誘導され、合成されたCanopy1タンパク質はシャペロン様の働きをして細胞膜上に提示される成熟Fgfr1量を増やすことで、FGFシグナルが増強されていることが明らかになった(上図)。さらに、Canopy1を介したFGFポジティブフィードバックループは、転写因子tbx16、接着因子cadherin1の発現を誘導することで、DFCのクラスター形成が維持されることも明らかになった(上図)。しかも、FGFポジティブフィードバックループを実験的に破壊すると、DFCクラスターは複数の小さな細胞塊レベルにまで分離してしまい、結果として、KVの形成不全、左右非対称性の異常が引き起こされることが明らかになった(下図)。以上の結果は、KV前駆細胞のクラスタリングがFGFポジティブフィードバックによって制御されることと、DFCのクラスタリングがKV器官形成および、左右非対称性の確立に不可欠なプロセスであることを示している。

Takaaki Matsui*, Siripong Thitamadee, Tomoko Murata, Hisaya Kakinuma, Takuji Nabetani, Yoshio Hirabayashi, Yoshikazu Hirate, Hitoshi Okamoto, and Yasumasa Bessho (2011) Canopy1, a positive feedback regulator of FGF signaling, controls progenitor cell clustering during Kupffer’s vesicle organogenesis (*Corresponding author) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, in press.

(2011年06月01日掲載)

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