NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

研究成果の紹介

中島教授が第42回内藤記念科学奨励金の助成を受託しました

分子神経分化制御学講座の中島欽一教授が、第42回内藤記念科学奨励金(研究助成)を受けました。内藤記念科学奨励金は、人類の健康の増進に寄与する自然科学の基礎的研究に独創的・意欲的に取り組んでいる若手研究者を対象とした内藤記念科学振興財団による助成金です。

財団法人 内藤記念科学振興財団

助成受託のコメント

中島教授 この度、内藤記念科学振興財団より第42回(2010年度)内藤記念科学奨励金を頂けることになりました。これまで私はこの奨励金を、三度受領する機会に恵まれ、大変感謝しております。今回の奨励金に関しましても、共同研究者の本学学生蝉克憲君とともに有効に活用させて頂き、バイオサイエンスの発展に少しでも貢献できればと考えております。

助成受託研究テーマ

NFIAによるDNA脱メチル化機構の解析

図1中枢神経系を構成するニューロン、アストロサイト及びオリゴデンドロサイトは発生過程において共通の神経幹細胞から分化する。しかし、神経幹細胞は発生初期から上述3種類の細胞種への分化能をもつわけではなく、胎生中期にまずニューロンへ、続いてアストロサイト、オリゴデンドロサイトへ、というように発生段階依存的に順次獲得することで最終的に多分化能をもった神経幹細胞として成熟する(図1)。この分化能の獲得、特にアストロサイトへの分化能獲得には、アストロサイト特異的グリア線維性酸性タンパク質(Gfap)遺伝子を主とした発現制御機構解析から、アストロサイト特異的遺伝子群プロモーター領域におけるDNA脱メチル化の重要性が、我々の先行研究で明らかになっている(Dev Cell 2001)。我々は、Gfap遺伝子の発現は、LIFに代表されるIL-6サイトカインファミリーによって活性化される転写因子Stat3の結合によって誘導されることを示しているが(J Neurosci 1999, Science 1999)、そのプロモーター領域がメチル化されている場合、Stat3は結合できない。これは、メチル化というエピジェネティックなゲノム修飾が細胞外シグナルへの応答性を制御していることを示している。一方この領域は、発生段階の進行と共に、胎生後期においては脱メチル化された状態にある。つまり、細胞外シグナルに対する応答性を獲得しており、IL-6ファミリーサイトカインに応答してアストロサイトへと分化することが可能となっている(図2)。我々はさらに、胎生期における分化能獲得の順番に着目して、アストロサイトに先行し分化・産生されるニューロンが残存する胎生中期神経幹細胞のNotchシグナルを活性化し、それにより誘導される転写因子NFIAがこの脱メチル化を引き起こすことを明らかにした(Dev Cell 2009)。またこの脱メチル化は、NFIAが維持型DNAメチル化酵素DNMT1のアストロサイト特異的遺伝子プロモーター領域への結合を阻害することによる受動的なものであることも明らかにした(図3)。

しかし、重要な問題点が依然として残されている。それは一体どのようにしてNFIAが、DNMT1のアストロサイト特異的遺伝子群プロモーターへの結合を阻害するのか、という問題である。そこで本研究課題は、最近本学に導入された次世代シーケンサーを用いて、NFIAの結合部位を網羅的に同定し、近傍の共通配列やヒストン修飾、共通して会合する因子の機能解析などを解析することでこの問題を解決するために立案された。本研究が遂行された場合、その概念は、他の系でも長らく分かっていなかった、領域あるいは配列特異的DNA脱メチル化機構解明へと応用可能であり、神経科学の分野のみならず、非常に多くの他分野に対するインパクトも大きいものになる可能性が高いと考えられる。

関連する論文
  1. Namihira M., Kohyama J., Semi K., Sanosaka T., Deneen B., Taga T. & Nakashima K. Committed Neuronal Precursors Confer Astrocytic Potential on Residual Neural Precursor Cells. Dev Cell 16, 245-255 (2009).
  2. Takizawa T., Nakashima K., Namihira M., Ochiai W., Uemura A., Yanagisawa M., Fujita N., Nakao M. & Taga T. DNA methylation is a critical cell-intrinsic determinant of astrocyte differentiation in the fetal brain. Dev Cell 1, 749-758 (2001).
  3. Nakashima K., Yanagisawa M., Arakawa H., Kimura N., Hisatsune T., Kawabata M., Miyazono K. & Taga T. Synergistic signaling in fetal brain by STAT3-Smad1 complex bridged by p300. Science 284, 479-482 (1999).
  4. Nakashima K., Wiese S., Yanagisawa M., Arakawa H., Kimura N., Hisatsune T., Yoshida K., Kishimoto T., Sendtner M. & Taga T. Developmental requirement of gp130 signaling in neuronal survival and astrocyte differentiation. J Neurosci 19, 5429-5434 (1999).

(2010年11月09日掲載)

研究成果一覧へ


Share:
  • X(twitter)
  • facebook