NAIST 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域

研究成果の紹介

植物の枝分かれのメカニズムの解明

高等植物の体は、芽生えた時の茎頂分裂組織から生じる主軸と側面についている葉、更に一枚ずつの葉の根元から伸びた枝と葉から出来ている。植物は環境条件に応じて枝の茂らせ方を変えていくので、どのように枝分かれをするかは植物の最終的な体の形を決める非常に重要な問題である。枝の成長には二段階あり、葉の根元に新しい分裂組織が作られる過程と、その分裂組織が活発に働いて枝として伸びていく過程に分けられる。このうち、分裂組織の作られる過程に関してはこれまでほとんど研究されていなかった。シロイヌナズナの芽生えでふたばの間にある茎頂分裂組織形成に関わるCUC2 (CUP-SHAPED-COTYLEDON 2)遺伝子が変異しても、はっきりとした異常が見られない。しかし、良く似た遺伝子であるCUC1の変異と一緒になるとふたばの周辺部が融合して一つのワイングラス型の芽生えになり、主軸を作り出す分裂組織が出来ない。今回、CUC2の単独変異株に更に突然変異が生じるような処理を施し、ワイングラス型の芽生えが生じる新しい突然変異株を多数選び出し、その原因遺伝子を調べると共に、その植物の性質を調べた。その結果、CUC2遺伝子と、それに良く似たCUC3遺伝子の変異が重なるとワイングラス型の芽生えが生じるだけでなく、成長した時に枝を生じる分裂組織の形成が顕著におさえられる事が明らかになった。CUC1,CUC2,CUC3遺伝子は、それぞれ転写因子と呼ばれるタンパク質に翻訳される。これらのCUCタンパク質は植物にだけ存在するタンパク質である。今回の研究により、この3つのタンパク質はお互いに良く似ているがその働きに少しずつ差異がある事が明らかになった。そして、CUC2とCUC3タンパク質が枝の分裂組織形成に関係する事もわかった。また、別の種類の転写因子の仲間に属するLASと呼ばれるタンパク質も、枝になる分裂組織の形成にCUC3タンパク質と協調して関わる事も判明した。今回、植物の枝の基になる分裂組織を作るキー遺伝子が明らかになった。この分裂組織は、植物が枝分かれをした地上部全体を形作るうえで非常に重要な組織である。今回の発見で、この組織の形成が分子レベルで解明される糸口が見つかったことになり、これは植物が環境に適応して体全体を作っていく機構を理解する第一歩となる。そして、成長した植物全体の形状を人工的にデザインできる可能性にも繋がる。

掲載論文

Arabidopsis CUP-SHAPED COTYLEDON3 Regulates Postembryonic Shoot Meristem and Organ Boundary Formation.
Hibara K, Karim MR, Takada S, Taoka K, Furutani M, Aida M, Tasaka M. Plant Cell. 2006 Nov;18(11):2946-57. Epub 2006 Nov 22.

(2006年12月20日掲載)

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