幹細胞工学研究室
Stem Cell Technologies Lab

研究内容

幹細胞工学研究室では、発生過程で引き起こされる器官形成のしくみを解析して、その知見を基に幹細胞から分化過程を精密にコントロールして組織を作製する研究を行っています。また、作製した組織を利用して疾患モデルを作製し、病気の原因を究明することを目指して研究を行っています。特に、内胚葉に由来する消化管組織や呼吸器の発生と分化に注目しています。

主な研究テーマ

1. 胃オルガノイドを用いた疾患モデルの開発

図1.マウスES細胞から作製した胃組織

胃は、主要な消化器官ですが、その発生のしくみは意外とわかっていません。発生初期の内胚葉から一本の消化管が形成され、胃の予定領域が決定され、さらに成熟分化して胃の内側に胃腺と呼ばれる円柱状上皮構造がびっしりと形成されると考えられていますが、そのメカニズムはあまりわかっていないのです。 私たちは、最近マウスES細胞から試験管内で胃組織を丸ごと分化させる方法を報告しました。この幹細胞分化方法は、胃の組織が形成されるしくみを調べるための強力な検証ツールになります。また、胃がんなどの疾患は、あまり良い動物モデルが存在しないことから、このような試験管内で作製した胃組織はがんなどの病気の発症機構を調べる上でも有用だと考えられます。私たちは、胃の発生のしくみを解析しつつ、この試験管内分化モデルを利用して分化のメカニズムを検証するとともに、疾患発症機構の解明にも取り組んでいます。

2.肺組織の分化と組織再生

肺は、胃と同じく、発生初期の内胚葉から形成された消化管から、肺の元となる肺芽が出芽し、増殖しながら枝分かれして発生していきます。最近、ヒトiPS細胞から肺の組織細胞を分化させる方法が検討されていますが、私たちも肺前駆細胞や気管支繊毛上皮細胞を分化させる方法の開発を進め、その分化制御のしくみを明らかにするための研究を進めています。

図2.多能性幹細胞から肺組織細胞への分化

3.脂肪組織に存在する幹細胞

脂肪組織や骨髄、胎盤など成体の様々な間葉組織には、間葉系幹細胞と呼ばれる線維芽細胞様の細胞が存在し、脂肪や骨、軟骨への分化能を示します。興味深いことに間葉系幹細胞は、生体に投与すると、免疫抑制作用や創傷治癒作用を示して組織再生を促すこと、細胞移植による腫瘍形成の危険性が低いことから、臨床応用が期待されています。しかし、間葉系幹細胞の性質は十分解明されていないことから、その有効性は評価が分かれています。私たちの研究室では、間葉系幹細胞の性質を分子レベルで解明することを目指した解析を行っています。

図3.マウス脂肪組織のシングルセル解析