研究室・教員

システム微生物学 (森研究室)

森浩禎教授の顔写真
教授
森 浩禎
助教
武藤 愛
Email
hmori@gtc.naist.jp, muto@bs.naist.jp
研究室HP
http://ecoli.naist.jp/www_Lab/

研究・教育の概要

学生にとって重要な事は、自分で考え、行動できる人になることです。大学院は、実際の研究現場です。研究の楽しさとともに、厳しさも経験しながら何をなすべきかを自分で考えることができる学生を目指します。

20世紀後半の分子生物学は爆発的に生命現象の分子機構を明らかにしました。一方で、現在でも細菌の振る舞いひとつ予測する事は困難です。それは、今までの研究が生物を構成する遺伝子やタンパク質など“部品”としての構造や機能解明が中心の研究であったのに対して、遺伝子間の複雑な相互関係は、未だほとんど手つかずの状態だからです。“部品”は繋がり合って、機能を持ち、さらに大きな繋がりで細胞ができています。これらの複雑な相互作用を明らかにする事で細胞を理解しようと考えています。

生物を構成する部品の数は膨大です。現在の生物学では情報科学の手法が必要不可欠です。私たちの研究室では生物を用いた実験と、そこから生み出される大量の実験情報から情報学的手法を用いて生物学意味抽出を目標に研究を進めています。

主な研究テーマ

網羅的リソース構築

近年の配列決定技術の驚くほどの進歩により、ゲノム配列決定の壁は非常に低くなりました。しかし、その配列解析から予想される遺伝子及び遺伝子群の機能の実験検証は、いまだに大きな課題です。それを可能にするのは、網羅的なクローンや欠失株ライブラリーなどのリソース(Kitagawa, 2005; Baba, 2006)と新たな方法論の開発です。現在も、新たな研究目的に必要なリソースはすぐに自前で揃える体制を構築してきました。大腸菌システム生物学において、私たちのリソースは世界標準となっており、これなしにシステム生物学は進められないと言っても過言ではありません。

細胞内ネットワークの解明

細胞の中の反応はつながり合い、ネットワークを構成しています。遺伝子の損傷は、局所的な機能欠損にとどまらず実に様々な影響をもたらす訳です。構築した一遺伝子欠失株ライブラリーを用いて、単一遺伝子欠失による表現型の変化を定量化するだけでなく、システマティックな2重欠失の組合せを導入する方法を開発し、解析を進めています。これには二種類の大腸菌間で染色体の交換が行なわれる接合という現象を利用します。small RNA遺伝子欠失株ライブラリーも構築し、タンパク質コードの遺伝子と共に2重欠失株を作製し、細胞内機能ネットワークの解明を進めています。

代謝経路ネットワークの定量解析とモデル化

私たちは、代謝経路の定量的解析を目的に、炭素源からエネルギーやアミノ酸を合成する中心代謝経路(解糖系、TCA回路など)に焦点を当てて解析を行っています。遺伝子改変を行い、蛍光により目的の酵素量を一細胞レベルで測定することを可能にしています。細胞レベルの酵素量の発現変動など、個々の細胞の発現の違いなども解析を行い、モデル化とシミュレーションを進めています。

接合による異種間DNA移動システムの構築

私たちは、大腸菌間で遺伝子欠失を接合により非常に効率的に移動させる技術開発を進めてきました。接合自体は大腸菌本来の機能ではなく、外来性プラスミドに依存した機能です。このシステムは水平移動の原動力の一つでもあり、耐性菌の拡大など、医学的に重要な課題でもありますが、この系を活用する事で、これまでに考えられないサイズのDNAを種を超えて移動させる事が可能になります。現在は特に放線菌を対象に大規模遺伝子移動システムの構築を行っています。放線菌は2次代謝産物合成など、非常に有用な生産菌ですが、ゲノム解明は終了していながら、形質転換の効率が非常に悪い事など問題を抱えています。接合の系を使うことで、遺伝子改変など、大腸菌の強みを活用し、放線菌などの有用微生物の改変を行います。

(図1) 開発したリソース : 対象とする遺伝子のプラスミドクローンライブラリを3種、現在開発中の低コピープラスミドが1種類、そして薬剤耐性遺伝子と置換えた遺伝子欠失株ライブラリー2種類を作製し、公開している。
(図1) 開発したリソース
対象とする遺伝子のプラスミドクローンライブラリを3種、現在開発中の低コピープラスミドが1種類、そして薬剤耐性遺伝子と置換えた遺伝子欠失株ライブラリー2種類を作製し、公開している。
(図2) 400遺伝子と全4000遺伝子の遺伝的相互作用を2重欠失株作製による定量化したものから、全体の相互作用地図を作成したもの。機能は色分けで示しており、同一の色は同一の機能に分類される遺伝子群。
(図2) 2重遺伝子欠失株作製による遺伝的ネットワーク解析の結果。
400遺伝子と全4000遺伝子の遺伝的相互作用を2重欠失株作製による定量化したものから、全体の相互作用地図を作成したもの。機能は色分けで示しており、同一の色は同一の機能に分類される遺伝子群。
(図3)
(図3) barcodeを利用した欠失株のポピュレーション変動。
Barcode を導入した大腸菌一遺伝子欠失株ライブラリーを用いて、3週間LB栄養培地で培養し続けた培地中での各欠失株のポピュレーションの変動を、barcodeを利用して定量した。

主な発表論文・著作

  1. Rajagopala SV, et al., BMC Genomics, 11, 470, 2010
  2. Aono E, et al., Mol Biosyst, 6, 1216-1226, 2010
  3. Typas A, et al., Nat Methods, 5, 781-787, 2008
  4. Butland G, et al., Nat Methods, 5, 789-795, 2008
  5. Baba T, et al., Mol Syst Biol, 2, 0008, 2006
  6. Arifuzzaman M, et al., Genome Res, 16, 686-691, 2006
  7. Kitagawa M, et al., DNA Res, 12, 291-299, 2005