成果報告

論文No.081

環境中のマンガン変動に対処するイネの仕組み

山地直樹、佐々木明正、夏継星、横正健剛、馬建鋒
Nature Commun. 4:2442, doi: 10.1038/ncomms3442 (2013)

Yamaji, N., Sasaki, A., Xia, J.X., Yokosho, K. and Ma, J.F. (2013) A node-based switch for preferential distribution of manganese in rice. Nature Commun. 4:2442, doi: 10.1038/ncomms3442

 マンガン(Mn)は光合成や様々な酵素の活性などに必要な金属で、植物の生育に欠かせない必須元素ですが、過剰に蓄積しても生育障害を引き起こします。植物の正常な生育に必要なマンガンの量は乾物重あたり僅か50-100mg/kgです。しかし、土壌中の可溶性マンガン濃度は大きく変動します。特にイネが栽培される水田環境では、水を張っていない状態では、土壌溶液中のマンガン濃度は1μM以下で、湛水状態では、200μM以上になります。植物は移動できないため、健全な生育のためにこのような大きな変動に対処しなければなりません。今回、我々はイネの節(せつ)に存在するマンガンの輸送体OsNramp3が、その変動するマンガン濃度に対処している仕組みを突き止めました。環境中のマンガン濃度が低い時には、OsNramp3は少ないマンガンを優先的に成長の活発な新葉や穂に分配する働きをします。しかし、環境中の濃度が高くなると、OsNramp3タンパク質は素早く分解され(図1)、その結果、過剰なマンガンは古い葉に分配されます。OsNramp3が環境中のマンガン濃度の変化を感知して、まるでスイッチのように機能していることを示しています。

Fig. 1

図1 環境中のマンガン濃度に応答してマンガン輸送体OsNramp3が分解する様子