成果報告

論文No.079

サイトカイニンによるAPC/C活性化因子の発現誘導が根におけるエンドサイクル移行を促進する

高橋直紀、梶原武紘、岡村智得子、ユンヘイ キム、片桐洋平、奥島葉子、松永幸大、イルドウ ファン、梅田正明
Curr. Biol. 23, 1812-1817 (2013)

Takahashi, N., Kajihara, T., Okamura, C., Kim, Y., Katagiri, Y., Okushima, Y., Matsunaga, S., Hwang, I. and Umeda, M. (2013) Cytokinins control endocycle onset by promoting the expression of an APC/C activator in Arabidopsis roots. Curr. Biol. 23: 1812-1817

 サイトカイニンは地上部では細胞分裂を促進するが、根では細胞分化を促進するホルモンとして知られている。これまでの研究により、サイトカイニンシグナルの下流で活性化される転写因子ARR1, ARR12がAux/IAAファミリーの1つであるSHY2の発現を誘導することによりPINなどの発現を抑制し、細胞分裂から細胞分化への移行を促進すると考えられていた(図1)。しかし、サイトカイニンがオーキシンを介さずに細胞分化への移行を制御する機構は知られていなかった。シロイヌナズナにおける細胞分化はDNA倍加と連動して起こると考えられている。そこで、DNA倍加を促進するAPC/C活性化因子CCS52A1に注目し、その発現制御について解析した。その結果、CCS52A1はDNA倍加が始まる数細胞前から発現し始めること、またサイトカイニンにより活性化される転写因子ARR2により発現が誘導されることが明らかになった(図1)。そこで様々な遺伝学的解析を行ったところ、ARR2-CCS52A1経路とARR1/12-SHY2経路の両方が細胞分裂からDNA倍加(細胞分化)への移行に促進的に働くことが示された。つまり、サイトカイニンはオーキシンシグナルを抑制するだけでなく、直接細胞周期を制御しDNA倍加を誘導することにより細胞分裂から分化への移行を制御していることが明らかになった。サイトカイニンが細胞周期因子を直接制御する例はこれが初めてである。

Fig. 1

図1 サイトカイニンによるDNA倍加の誘導機構
サイトカイニンはSHY2の発現を上げることにより、オーキシンシグナルと拮抗的に作用している。一方、サイトカイニンにより活性化される転写因子ARR2はCCS52A1遺伝子の発現を誘導することにより、細胞分裂からDNA倍加(エンドサイクル)への移行を促進する。これらの制御により根端分裂組織のサイズが一定に保たれる。