成果報告

論文No.071

サイトゾル型グルタミン合成酵素1;2はイネ根におけるアンモニウムイオンの初期同化の役割を担う

舟山和宏、小島創一、小林(田渕)真由美、澤勇己、中山洋佑、早川俊彦、山谷知行
Plant Cell Physiol. 54: 934-943 (2013)

Funayama, K., Kojima, S., Tabuchi-Kobayashi, M., Sawa, Y., Nakayama, Y., Hayakawa, T. and Yamaya, T. Cytosolic glutamine synthetase1;2 is responsible for the primary assimilation of ammonium in rice roots. Plant Cell Physiol. 54: 934-943 (2013)

 イネのゲノムDNAには、3種類の細胞質型グルタミン合成酵素 (GS1; GS1;1、GS1;2、GS1;3) がコードされている。その中のGS1;2は、イネの根にアンモニウムが与えられた時に、根の表層細胞群で発現することが明らかとなっている。この事実より、イネGS1;2の機能は、根において吸収されたアンモニウムのグルタミンへの同化に、重要な役割を果たしていることが予想されていた。そこで、直接的にイネGS1;2の生理的な機能を明らかにするため、レトロトランスポゾンが挿入されることでGS1;2が欠損したイネを選抜し、野生型イネとGS1;2変異体イネの性質の比較解析を行った。その結果、GS1;2変異体の根や導管液中では、GSのプロダクトであるグルタミンの濃度減少、また、その基質であるアンモニウムの濃度増加が、それぞれ観察された。さらに、詳細な生長解析により、GS1;2変異体では、有効分げつと穂数の減少に起因して、著しい収量の減少が観察された。しかし、イネの他の収量構成要素である、一穂当たりの種子数、種子の登熟度、種子重量などには、大きな変化は見られなかった。以上のことより、イネのGS1;2は、根で吸収されたアンモニウムの一次同化に重要な役割を果たすとともに、イネのバイオマスや、その最終収量に大きな影響を及ぼしていることが明らかとなった。

Fig. 1

図1  野生型イネ(Nipponnbare)(黒カラム)、GS1;2変異体イネ(白抜きカラム)、及び、GS1;2変異体にGS1;2遺伝子を組み込んだ形質転換イネ(青、ピンク、グレイカラム)における導管液中のアンモニウム濃度の比較
(1mM NH4+を窒素源として35日間水耕栽培した植物体を測定に供した。野生型イネと比較して、GS1;2変異体イネの導管液中におけるアンモニウム濃度は、著しく増加していた。その一方で、GS1;2変異体にGS1;2遺伝子を組み込んだ形質転換イネの導管液中のアンモニウム濃度は、野生型イネとほぼ同等であった。

Fig. 2

図1  2009年、水田で栽培した栄養成長期(田植え後42日目、左の写真)及び登熟期(田植え後137日目、右の写真)の野生型イネ(Nipponnbare)とGS1;2変異体イネの表現型の比較
これらの観察結果から、野生型イネと比較して、GS1;2変異体イネでは、著しい分げつ数の減少と、それに伴うバイオマスの減少が観察された。