成果報告

論文No.020

AP2/ERF転写因子WIND1はシロイヌナズナにおいて細胞の脱分化をコントロールする

岩瀬哲、光田展隆、小山知嗣、平津圭一郎、小嶋美紀子、新井剛史、井上康則、関原明、榊原均、杉本慶子、高木優
Current biology 21, 508-14 (2011)

Iwase, A., Mitsuda, N., Koyama, T., Hiratsu, K., Kojima, M., Arai, T., Inoue, Y., Seki, M., Sakakibara, H., Sugimoto, K., Ohme-Takagi, M. (2011) The AP2/ERF Transcription Factor WIND1 Controls Cell Dedifferentiation in Arabidopsis. Current biology 21: 508-514

 細胞の脱分化は、一度分化した体細胞がより低い分化状態に戻り、再び細胞増殖を再開する過程である。この現象は、多細胞生物で広く観られるが、その多くは傷害が引き金となっている。植物細胞では、この過程に植物ホルモンであるオーキシンとサイトカイニンの濃度比が大きく影響を与えることが20世紀半ばに発見されている。以来、植物細胞の脱分化と再分化を制御する技術は基礎科学および応用科学分野で広く用いられて来たにもかかわらず、この過程の分子レベルでの解析はあまり進んでいない。我々はAP2/ERF転写因子WOUND- INDUCED DEDIFFERENTIATION 1 (WIND1)が、シロイヌナズナの脱分化に関与していることを発見した。WIND1は傷害部位において発現が促進し、不定形の細胞塊であるカルスの形成を促進する。WIND1過剰発現体は培地に外生の植物ホルモンを添加しなくてもカルスを形成する上に、生じた細胞は脱分化状態を維持したまま継代培養が可能である。また種々の解析から、WIND1は傷口でサイトカイニンへの応答性を高めていることが明らかとなった。本研究の成果は、植物が傷ストレスに応じて細胞を脱分化させる制御機構の一端を分子レベルで解明し、WIND1タンパク質がそのスイッチとして働く転写因子の1つであることを世界に先駆けて明らかにしたことである。

Fig. 1

図1 WIND1遺伝子のプロモーターレポーター解析から、WIND1遺伝子は、傷口周辺の細胞とそこから生じるカルス(写真右)で特異的に発現が促進することが分かった。

Fig. 2

図2 WIND1遺伝子をシロイヌナズナ植物体で過剰に発現させると、高発現の植物体ではカルスを形成した。