成果報告

論文No.013

東南アジアなどで栽培される浮イネの洪水回避機構の解明

服部洋子、芦苅基行
BRAINテクノニュース 137, 17-22 (2010)

Hattori,Y and Ashikari,M. (2010) BRAINテクノニュース 137: 17-22

 浮イネは,タイやバングラデシュ,カンボジアといった東南アジアのデルタ地帯で栽培されているイネである。このような地域では,雨季になると大規模な洪水が起こり,多くの作物は水没し溺死してしまう。しかし,浮イネは水位の上昇に合わせて節間伸長を行うことで,洪水による溺死を回避する特殊な機構を持つ。深水条件下では,非浮イネ・浮イネともにエチレン含量が増加する。非浮イネでは,増加したエチレンをシグナルとして受け取るSK遺伝子が存在しないためシグナルが伝達されず,またGA含量も増加しないため伸長できず水没し溺死してしまう。一方,浮イネでは深水条件下で植物体に蓄積したエチレンをシグナルとして受け取るSK遺伝子が存在する。ERFsであるSK遺伝子は,エチレンシグナル伝達経路においてEIN3によって発現が誘導され,さらに下流に存在する遺伝子の発現を制御することで下流へシグナルが伝達される。同時にGA含量が増加することで節間伸長が誘導され,深水条件下での著しい伸長生長を可能にしていると考えられた。

Fig. 1

図1 深水条件下における節間伸長モデル